D.I.Y. 木材の特徴
D.I.Y. 木材の特徴
スピーカーを手作りする際に、気になるのがエンクロージャーの素材ではないでしょうか。
そもそも、気に入ったスピーカーユニットが有って、それに合うエンクロージャーを設計し、制作する訳ですが、その材質選びは悩ましいのが現状です。多くの書籍でも、木材の種類と音色等の情報を目にしますが、弊社の経験と独断の印象を出来るだけ紹介するために、掲載を決めました。
全ての木材を紹介する事は困難で、扱い方や仕上げ等で大幅に印象が変わってしまいます。ですので、ここに記載された情報は、弊社が責任を負うものではなく、自己責任において参考にしてください。
また、スピーカーとしての材の特徴を掲載したものですので、木材の詳細は別の方法でお調べ下さい。
合板、圧縮材等
●MDF・・・ラワンやイエローポプラ等の木の粉をボンドで固めた物
一般的にスピーカーのエンクロージャーに広く使われ、高級スピーカーにも採用されています。価格も安く入手が容易で、無垢材の様に部位や節等の障害がありません。比重もあり、スピーカーには好都合と言えます。固有の共振帯も200Hz付近から下で、低音にまぎれて、箱鳴りを感じにくいと思われます。安定した音が得られ良いのですが、面白くない音色とも言えます。エンクロージャーの魅力より、スピーカーユニットの性能を重視される方には良いかもしれません。
表面は、美しい物ではなく、ツキ板仕上げかピアノブラックの様な仕上げになります。
●パーチクルボード・・・MDFと同じ様な板で、木材の粒が粗く、松等の針葉樹が良く使われます。
大型スピーカーには都合が良いかと思います。昔のスピーカーは殆どこの材で作られていますので、出来上がった音は昔の音に印象が近くなります、基本的に箱鳴りは収まらず、ぼけた音の印象になります。水に弱く、板の中心がスカスカなため、接着等の強度が出ないので、補強材等の工法に注意が必要です。表面は、美しい物ではなく、ツキ板仕上げかピアノブラックの様な仕上げになります。
●ランバーコア・・・軽い木材をシナ合板で挟んだ材
安価ですが止めた方が無難な材です。音を出した瞬間から作り直そうと思う素材です。
●ラワンべニア・・・主材がラワンで薄くスライスした板を積層させて作っています。
使い方次第でしょうが、箱鳴りが止まらず不快感のある音に仕上がります。どうしても使用する場合は、6㎜程度の薄い材を使って、補強を充実させた方が音抜けも良く仕上がります。バスレフでは、設計によって印象が変わります。箱鳴りが出ずらいロングポートの方が有効です。最悪の使い方は、板厚を厚くして剛性を稼ぐ方法で、いかにも素人っぽい音に仕上がります。表面もあまりきれいではなく、塗装は大変だと思います。
●シナべニア・・・表面がシナ材なだけで、中はラワン合板の物
表面が綺麗で、ニスかクリヤー仕上げ、もしくは不透明塗料等の仕上げが可能です。その他はラワンべニアと同じになります。
●フィンランドバーチ・・・カバ材の合板で、ロシアンバーチ、ホワイトバーチ等もあり殆ど同じです。
大小問わずスピーカー材としては優れた印象です。共振帯が1KHz付近で無垢材に近く、慣れてくると、硬い音の印象とふくよかな温かみのある音の印象を、厚みや工法で作り分ける事が出来ます。素材は硬く、何より価格が高いのが難点。規格も海外規格で、2400㎜×1200㎜が一般的です。表面も綺麗な物を選べば、オイルステインの塗装の上クリヤー仕上げで綺麗に仕上がります。小さなスピーカーで、厚みのある板を使うと、硬い音になり易い傾向があります。
●シナアピトン合板・・・シナ材とアピトン材を交互に挟んだ合板
特殊合板で、響きと音の切れをバランスよく考えた合板の様です。独占販売(卸)ですので、かなり高価な材です。合板木口の縞目を見せる以外に、バーチ合板以上の印象はありません。なんとなく曇った音に仕上がります。
●米松及びラーチ材の合板
一部に米松を珍重する方も多いようです。米松のつもりで米松でない板を購入する方も多く、完全な米松材の物が意外と少ないのも現実です。秋田等のラーチ合板と同じ様に、針葉樹特有の響きを持っています。好き好きになりますが、繊維のばねが強く、サブウーハーの様なパワースピーカーには向きません。箱鳴りを楽しめる方にのみお勧めします。板は、ばさばさした手触りで、綺麗に加工するのが難しく、表面も節だらけです。この手の材で、綺麗なスピーカーを見たことはありません。仕上げが課題でしょう。価格は先にあげた合板が嘘のように安いです。
●シナ共芯合板・・・きわめて特殊な合板で、芯までシナ材を使っています。
殆ど入手は困難でしょう。シナは柔かい木ですので、ふっくらと温かみのある音に仕上がります。表面も良質のシナですので、シナの仕上げが出来る方は都合が良いかと思います。
集成材・無垢材
●ラバーウッド集成材・・・ゴムの木の集成材
比重が有って硬く、ホームセンターなどで簡単に入手できる素材。切る、削るが容易で、ニス等で仕上げれば、かなり高級感も出ます。音は無垢材と同じように、1KHz付近が豊かに響きますが、全体的に硬い印象です。解像度を高めるスピーカーや、大型のスピーカーに向いていると思います。嫌味な箱鳴りも少なく、手軽に作るには都合が良いと思います。天然ゴムを抜き取った後の廃材を利用した物で、環境面でも優れています。比重がある分重たく、小型の家具に使うと重たくて扱いにくい材ですが、スピーカーには欠点にならないでしょう。
●パイン材・針葉樹系集成材
針葉樹の無垢材と、殆ど同じ特性だと思います。表面の板目は集成材特有の細かいレンガ調になる程度です。かなり響きます。共振とユニットの特性、音の好みで評価が大きく割れる材です。
●ウォールナット無垢材
集成材も含み、同じ特性だと考えられます。音が甘くなり過ぎず硬くなり過ぎず、丁度良い響きを持つ材。高級家具にも使われ、オイル仕上げで大変美しく見栄えがします。板の厚みの影響も少なく、大小様々なスピーカーに使えます。値段は高価になります。
●イエローポプラ
安価な材で、建材等に広く使われています。キメが細かく比重もあり、箱鳴りも落ち着いて使いやすい材です。音抜けはあまり良い方ではありません。甘めのウエットな音作りに向いていると思います。
●ハードメープル・タモ・チェリー等
同じ種類の木材ではありませんが、音抜けに難があると考えます。厚みを持たせて使用すると、板に音の振動が残り、補強をしてもあまり改善されません。板厚を薄くして使った方が調整が楽になると思います。基本的に、この手の材は全面に使うのを避け、他の材と組み合わせて使用する事をお勧めします。
●クス
木魚の材として、もしくは彫刻材として使われます。変形がひどく乾燥材も流通していないので、板材の入手は困難でしょう。弊社では特別な工法で製品化していますが、それだけのリスクがあっても、他に代えがたい美しい響きを持っています。音抜けも良く、小型スピーカー向きだと思います。
●ホワイトオーク・カシ・シイ
カシは論外かもしれませんが、硬い木の代表格です。切るのも削るのも大変で、木材の角で指を切る厄介な素材です。当然響きは硬く、カチッとした音が期待できます。20㎝以上の大きめのスピーカー向きでしょう。
●米松・杉・その他の針葉樹
木材としては音抜けが良いのが針葉樹です。ただし、木の繊維に直行する向きで振動が伝わると、大きく共振します。引きは早いが大きな共振音を発生させます。その音が言うなれば味になる訳です。合板では困難ですが、補強の効果はかなり見込めますので、お好みの音に調整する事は可能です。
●スプルス・ヒノキ
針葉樹でもキメが細かく、松ほど派手な共振音は出ず、落ち着いた響きが期待できます。スプルスは、ヴァイオリンの素材として知られています。この2つの木材は、グレードが有って、良質の物は大変高価で入手も特別なルートになります。どちらも節があり、無節の物は綺麗ですが甘くなる可能性もあります。見た目を気にしないのであれば、特にヒノキの場合、節が多い方が木材の強度もあり、むしろ良い音が期待できます。
その他
★共振音には、聴感上2つの傾向があると思います。1つは板(素材)そのものに振動が残る物と、2つ目は、太鼓の膜の様に、大きく振幅して音を出す(強調する)場合があります。1つ目のタイプは、板厚を薄くするより無く、補強で調整が利きません。組み上げてからの調整が困難なので、テストが必要でしょう。また、特に調整が困難なバッフル板にはお勧めできません。2つ目のタイプは、補強で随分変化します。スピーカー作りの楽しさの1つと言えるでしょう。
★ギター等の楽器に用いられる木材は、スピーカー材としても珍重されています。確かに響き音は美しく、心地の良い音だとは思いますが、厚み15㎜、20㎜もしくは30㎜と言ったぶ厚い板で楽器を作ることはありません。これらの材に拘る場合は、どの様に使われているかを調べてから設計された方が良いでしょう。
注意>
良質の無垢材でスピーカーを作るのは、手作りならではの魅力だと思います。ですが、良質であっても同一材を全ての面に使うと、共振音がオンサの様に増強し合う事が考えられ、気に入った物にならない事があります。特性の違う素材と合わせる等、変化を付ける事をお勧めします。桜やタモ等の材を使って、その様な失敗例を随分耳にしています。けっちって丁度と言うことなのでしょうか。