2015年1月

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画像を載せるのをためらうほどのボロ箱ですが、これでもテストボックスです。 外観の良さも売りの弊社としては、イメージダウンにつながりかねない見苦しさです。

 

ですが、これにもそれなりの訳があります。それは、音の性能を確認するための物ですので、「音」に対してストレートであるためには、この方が都合が良いのです。 中途半端に綺麗さを求めれば、柔軟な変更が速やかに出来なくなります。
例えば、2つのスピーカーを聴き比べる場合、片方を聴いてから、1時間ほどしてもう片方を聴いたのでは、差が分りにくくなります。 比較は直ぐに出来た方が、正確なデータが得られると思います。 バッフル板、ウーハー下側に横木を2本打ちつけていますが、これもその部分の共振が気になり、数分で加工しています。 有名メーカーのテストボックスも、ガムテープでべたべた貼った物を写真で見たことがありますが、あれらも「音」に対してストレートに反応した結果だと思います。

 

素材もあまり豪華な物は使いませんし、概ね安定するMDFも使いません。全てが完成した時点で、テストボックス時以下の音であれば何にもなりません。 作りも材も悪条件で、調整しながら製品化可能な性能まで出せないと、それ以上の製品にならないと思います。 何より、テスト当初は、このユニットで決まった訳でもありませんので、カッコ良く美しいテストボックスなど考えられません。

 

音の仕上がりはまずまずです。 高域で演出している訳ではなく、中音域で透明感を感じます。 低域は、3インチボイスコイルとネオジムマグネットのウーハーですから、解像度が高く、俗に言う団子状態にならないすっきりとした印象です。 当然スピードも速く、なるほどこんな物を作る訳が解ったように感じています。だいぶ面白くなってきました。

アメリカンサウンドと言えば、JBLに代表されるドライでメリハリのある音、特に低音が強くないといけないらしい。それに対してイギリスでは、これもタンノイやハーベスなどが代表的で、 ぶ厚い中域音、少し霞がかかった雰囲気を作るのが上手い、そんな印象。

デンマークでは、世界のスピーカーユニットの殆どを占めていた時代が有ったほど、スピーカー作りでは世界の中心とも言え、 華やかで鮮明な音は、聴く人を楽しくさせるそんな印象です。あのJBLやインフィニティ―ですら、デンマークのメーカーからOEMを受けていたほどです。 変わったところでは、あのベルリン交響楽団を持つドイツでは、クラッシックに非常に厳しく、その耳は全てを再生しきっていなければ納得が行かない文化を持ち、 微細な音の先端まで表現しきる、そんな音を好むようです。 ですが、日本人にはさすがにきつく聴こえてしまい、これも好き好きではないでしょうか。

また、フランスなどは、あのハーベスのユニットを作っているメーカーが有ったりで、概ねイギリス+デンマークの様な印象でしょうが、今は元気なスピーカーメーカーが見当たらず、 特徴を表現するのは難しく思います。ノルウェーもデンマークメーカーを意識したようなメーカーが存在します。

上記の全ては、私の独断の意見ですので、当然異論を唱える方は多いと思います。

他には、当然日本、韓国、世界のユニットの90%以上を生産する中国、インド、インドネシア、イタリア、スペイン、ベルギー、スイス、カナダなどと言った国々が、 良質なスピーカー(オーディオ機器)を開発しています。

ですが、上記の4か国の様に、その国の好みや特徴が全く見えてきません。日本の場合はどうでしょうか? 過去にも現在でも優秀なメーカーが、多くの良質な音響機器を研究開発しています。では、日本の音とはどの様な感じでしょうか? これまで、その事を考える余裕はなく、択一的な音作りではなく、多くの表現を自由にユーザーが選べる、それで良いように感じていました。 ですがやはり、JBL(アメリカ)的とか英国風とか、他の文化やその国の国民性を模している様にも感じます。 これまで、日本の音を考えその様な製品づくりをして来たメーカーが思い当たりません。(自分が知らないだけでしょうが)

そんな事も含めて、何故自分はいつもこの「音」になるのか合わせて考えてみました。

日本の伝統音楽、例えば雅楽などは、室内の演奏ではありません。能舞台も基本は屋外ステージです。今で言うコンサートホールは日本にはなかったのでは。 祭りのおはやしも外ですし、和太鼓もそうです。温暖な気候に恵まれ、屋外の開放的な環境を自由に扱えた日本は、北欧の様な厳しい環境ではなく、 他の欧州の様に、鉛色の雲に覆われる時間が長い場所でもありません。 更には、琴や尺八等でも、場所は屋内でも、日本の建築は柱構造ですので、晴天(温暖)であれば全ての扉を空け放ち演奏する光景を思い浮かべます。 その様な屋外での環境を考えると、どこまでも音は広がりはるか先へ抜けて行きます。

また、世界的にも水に恵まれた国土を持ち、軟水の澄んだ水が豊富存在します。わさびの文化も、それなくしては存在しなかったものです。 挙げて行けば限がないのですが、その様な事から、繊細で透明感があり、澄んだ音がどこまでも抜けて行く、そんな音がこの国らしさではないでしょうか。もちろん、そんな簡単な話ではないでしょうが、いたずらに長文になることもあり、だいぶ割愛しています。これも、私の思い込みなのかもしれません。

いつも心掛けている事は、その透明感と限りない解放感で、無意識にでしょうがその答えと近いところを追求してきたのかもしれません。

「日本の音」を十分に再現(表現)する事は大変難しいのですが、日々少しでも近づける様努力しています。 今有るラインナップもその一部は表現できていると思いますが、特にYosegi-LHC-TX400は、日本の音の入り口位には来ていると感じています。


激しく外観は悪いのですが、テストBOXを作り早速ネットワーク回路の設計に挑戦。 ウーハーとツイーターを独立させ、ツイーターの位置を前後させて、シュミレーションと実測値の差を調整しながら位相を合わせています。

完全なやり方ではないのですが、パソコン上でシュミレーションした回路を使い、それを実測で想定し、結果を見ながら計算値と実測値のずれを修正して行きます。 そうする事で、ツイーターの前後位置が決まったデザインでも、それに最適な回路を選ぶことが出来ます。 要するに、同一面(同じバッフル面)にウーハーとツイーターを設置した状態での最適な回路設計を見つけ出すわけです。

同一面での設置の場合、位相のずれはツイーターには奥行きが無く、ウーハーと比べて前から音が出る形になります。 基本的には、ボイスコイルの位置を合わせるのですが、ユニットの種類などで必ずしもボイスコイルの位置で決まる訳ではない様です。 そのため、計算上の0㎜が実測ではどの位置にあるのか確認し、それを都合の良い位置に動かした距離をシュミレーションに入れ込み更に回路設計をやり直します。

作業的には大変ですが、パソコン1台と測定ができるマイクが有れば誰にでもできます。詳細は公開できませんが、知りたい方はお問合せ下さい。 ただし、最低限の設備で考えたやり方なので、正しいとは言えないかもしれません。

で、テストBOXの側面に、別のウーハーの様なものが付いてますが、それはパシップラジエータです。昔のドローコーン。
言葉で説明するのが難しいのですが、バスレフは、有る所の低域を強くしますが、その周波数より直下の周波数が落ち込みます。 一般的にはその周波数より上の範囲を有効周波数帯とします。パシップの場合、密閉型とバスレフの間の様な特性で、 ある程度は低域を強化しますが、バスレフの様な落ち込みは発生しません。 この商品開発では、重低音を求めるのではなく、深い低音を求めました。その為パシップラジエータを選択したわけです。

20㎝程のウーハーであれば、密閉型でもそれなりの低音は望めるでしょうが、15㎝(5.5インチ)では、それなりの工夫が必要です。

今のところの印象では、40Hz付近でも十分感じられ、狙い通りの深い低音です。それほど弱い印象はありません。(重低音とまでは言えませんが) 中音域は艶やかで、厚みのある印象。高域にかけて透明感があり全体的に落ち着いた音の印象です。 高級機にふさわしい感じになってきました。

欠点は2つ。1つはパシップは幾分遅れた印象があり、それをどこまで解消できるかと、もう一つは、大パワーのアンプでないと、正確にドライブできない事です。 今使っているのは片側75W程度のLM3886 BTLのアンプです。それでも瞬発力が出し切れない感じがします。 ユニット自体のポテンシャルは、もっと上になるようです。スピード感を表現するには、大パワーか超高額アンプになると思います。 メーカーやその質でも変わりますが、一般論として30万のプリメインアンプではNGでしょう。 セパレートアンプで、パワーアンプが70~100万位の製品で丁度の様です。(トランジスタアンプの場合)

これは、ボイスコイルが3インチも有るウーハーユニットの特性で、弊社の主義ではありません。 ですが、オールマイティーな製品を作っている訳でもないので、このまま進めようと思っています。



こんな高価なユニットを買ってしまいました。 弊社では、このクラスのユニットを使う事は無いと思っていました。



単純に、希望小売価格の10%がユニット代と思えば、世間のスピーカーはその位でできています。 自作する方から見れば、とんでもない数字に思うかもしれませんが、ホームセンターのべニア箱で販売する訳にもいきませんし、メーカーと販売店の利益や宣伝広告費等、この比率でぎりぎりでしょう。



基本的に、箱(エンクロージャー)の方が高いのです。 大手メーカーでは、大量買いしますので、10%以下は間違いないでしょう。 その理屈がそのまま弊社に当てはまる訳ではありませんが、このユニットを使えば、もちろん弊社の最高額商品になります。

「怒りの高額商品開発」と題していますが、何が怒りかは割愛しますが、そのためのテストユニットです。

個々に何がすごいかを書いていてもマニアックになり過ぎますのでやめておきますが、こんな物当たり前に手に入る今の時代は、それだけですごい事です。 能率が少々低めなのは難点ですが、さてはてどんな音がでるのか楽しみです。

デザインも概ね決まっていて、販売価格は40万円程度になる予定。 3組/月程の生産しか出来ませんが、それで十分でしょう。

早速、実験してみますので、音の印象がつかめましたら、またご紹介します。



昨日、木工組合の新年会がありました。 となりの席の御年75歳の方は、昨年末に息子さんに会社を譲り、隠居のみとならたそうです。

幼いころは満州で過ごし、大戦で父親を亡くし、引き揚げ後に都内の木工やで修行したそうです。 本人の話では、当時は映画を1本見て散髪に行けば月給が無くなるほどの収入だったらしく、 戦後の混乱期では、そんな人の使い方もあったのかもしれません。

その後、今の木工組合員でもある方の、お父さんの工房に飛び込みで修業し、 今では、専門の機器をそろえる工房を持ち、何十年のお付き合いの多くの顧客があり、 従業員も抱える株式会社まで築き、先ごろ息子さんに全てを譲ったそうです。

趣味の域をはるかに超えた社交ダンスは、かなりの力の入れようで、 自前のダンスホールを作ってしまうほどで、 代替わりをしても、だいぶお忙しいようです。

現在は、恵まれた時代ですので、この様なご苦労は想像もつきませんが、 「今までの人生で、全く後悔は無い」とおっしゃっていたのが印象的でした。

戦後復興、高度経済成長と多くの波が、この小田原の木工芸にもおよび、 夢物語のような全盛期があったそうで、その中で財を築いた方々が殆どです。 ビジネス的には、むしろ今は厳しい時代です。 ですが、やっぱり一世代前の方々は、荒波を生き抜く力が本当に強く、 その力があったからこそ出来たことなのでしょう。 自分たちの代も負けてはいられません。 もっともっと努力しなければ!!

新春ともなると、あちことで和太鼓の演奏が披露されます。中には、直径1mを超える物もあり、その重低音は流石としか言いようがありません。

でもなぜあれほどの大きな低音が出るのでしょう?

確かに直径1mですから、スピーカー(ウーハー)で1mもあれば、かなりの低音が期待できそうです。でもそれだけではなくて、後ろ側に張った同じ皮が、重要な役目をしています。前面の皮を叩き、皮が振動して、その振動が太鼓内部の空気に伝わり、後ろの皮を振動させます。その時に、内部では空洞現象をお越し、高域の高周波が打ち消しあい、更に高周波では後ろの皮を動かす力はないため、低音(低周波)だけが後ろの皮から発せられます。

と言うことは、単純に考えれば、倍の低音が出ていることになります。この方式は、スピーカーでも同様の物があります。それがパシップラジエータ―(昔のドローコーン)です。この方式では、後ろの皮に当たるパシップラジエーターからは、せいぜい1KHzか2KHzまでしか出ませんし、しかも非常に弱いので、中高域に濁りが無く、しかもウーハーユニットの裏側の音も利用できるので、低域特性も有利です。バスレフ方式と異なり、低域のアップダウンがありませんので、同時に深い低音を楽しむことが出来ます。

とは言え、ユニットからBOX内の空気を動かし、更にパシップを振動させるため、どうしてもスピード感が落ちてしまうのが欠点です。バスレフの場合はBOX容量をむやみに大きくすると、やはりスピードが鈍くなります。しかも、大きな穴(ポート)にすると、ユニット裏側から発せられた中高域の一部が漏れてしまうため、音の濁りにつながります。

スピード重視なら、やはり密閉型。しかし、一般的なユニットでは、100Hz付近から下の低音は下がってしまう傾向があり、裏側の音を完全に遮断する密閉型では、強い低音を生み出すのはかなり苦労します。

21世紀になっても、これなら絶対と言えるスピーカー方式は未だなく、そこが悩ましくも面白いところかもしれません。

 

ちなみに、あの1m超えの和太鼓の音を、ホームオーディオで再現するとしたら・・・
仮に直径50cmのウーハーを用意し、和太鼓の皮の面の振幅幅の4倍の振幅が出来るユニットだとして、それと同じパシップラジエーターを使い・・・ ところで、あの肉体美(ちょっとマッチョ)な演奏者の振り下ろしたバチの威力は何ワットに当たるのか???

一般の方は、こんなばかばかしい挑戦はやめましょう。これこそ生演奏を楽しみましょう。

2015年 新年 明けましておめでとうございます。

昨年中は、皆様方の暖かいご支援を賜り、誠にありがとうございました。 本年も変わらず、オーディオ業界の異端児として、私たちの考えを貫いて、 お客様に利する事を第一として、ぶれずに歩んで参りたいと思っています。

アベノミクスの好景気は、弊社には全く届きませんが、 それでも今年は30万円超えの高級品の開発にも着手したいと考えています。

今後もより一層精進し、お客様のご満足を更に高める様頑張ってまいりますので、 これまでと同様に、ご支援とご助言を賜ります様お願い申し上げます。

 

2015年元旦   高井工芸 代表 高井和夫